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調査士の生の声 3


埼玉土地家屋調査士会 会報148号より抜粋
調査士として
大宮支部 佐藤正美

 凍て付く1月の早朝、前日の冷たい雨が降った影響か、路面が微妙に凍結しているような感じだ。
 午前4時、いつもよりやけに鈍く車のエンジンがスタートした。本日の調査対象地は新橋駅前。そう、ここは朝から夜まで人通りが途絶える事のない屈指の繁華街。当然まとに光波を飛ばしても不規則に動く人間障害物でひしめき計測が極めて困難な、我々にとってありがたくない環境であるといえようか。通勤のサラリーマン、OL等が集まるラッシュ前に少なくとも当該地を囲む街区のデータを取らなければならない。時間は僅かだ。
  午前5時半現場到着、当たり前であるが真冬のこの時期、日の出までにはまだ1時間はあろうか、辺りは暗いが街路灯が我々を照らしてくる。これであればなんとか調査を進めることが出来る。焦る事なくいつもの平常心で。
 午前8時前、ようやく街区データーを取得し、次は街区内対象地へ。辺りが完全に明るくなってから愕然とした事実が。ビルとビルの隙間が僅かで人体が入れない。しかも、周囲の建物は昭和40年前半に築造した古いものばかりだ。
  事前に依頼者から聞いた話だが、隣接建物の地下室の躯体が当地に一部はみ出ているらしいとの事。筆界調査及び計測技術の難易度が増すばかりだ。正直ためらう気持ちが更に倍増してしまう。『倍増してしまう』その理由とは、事前に法務局にて手渡された登記事項要約書を見るやいなや落胆してしまう。隣接地は4軒だけだが実は1軒が業界でも悪評の某不動産業者であり、ここは立会料及び合意承諾料の名目で法外な金銭要求をしてくると、もっぱらよろしくない話は以前から当職の耳にしている。
  もう1軒は、差押と担保権設定が多数。目を覆いたくなるほどのキズもの物件ではないか。所有者は新宿区歌舞伎町に住所を有する○×不動産(株)。なんだか怪しい雰囲気が直感的に感じ取られる。同様に債権者は全てこれまた新宿区歌舞伎町に所有を有する(株)○×興業。これだけで十分ウサン臭い。現在はまともに機能している法人ではないだろう。しかし全部接触しなければ先に進まない。依頼者である売主は金銭事情が悪化しているせいか、売却を早急に進めたいらしく当職にも檄を飛ばす。
 売主曰く、『家族全員の今後の生活があなたにかかっている』なんとか早くして欲しい。しかしそう言われても相手の事情により成果が左右されるこの商売。なかなか売主は理屈を理解していただけない。案の定上記の様々な悪い事情が折り重なってか、予定していた最初の取引は中止に。当職も最大限の努力をした結果であったのでやむを得ないであろうか。
  季節の移り変わりは早いもので、桜の花も散らばりを見せる新緑を迎える時期。幾多の難題が山積みしたこの案件も遂に終焉を迎えることが出来た。最初はまともな話すら出来なかった売主が初めて、『お蔭様で私たちは助かりました、ありがとうございました』ねぎらいの言葉を頂戴した。
  この瞬間で今までの苦労も忘れ、且つ自身が職業として調査士を選択して良かったと改めて感じた時でもあった。
  我々は時として危険と背中合わせになる事も覚悟しながら日々淡々と日常業務をこなさなければならない。又、我々は時として人様の生活と財産を登記とは別に他方から保全していかなければならない事もある。又、我々は時として広い意味で国土を保全するプロフェッションとして活躍しなければならない。オンライン申請も大切だが、会員の皆様、近い将来に調査士が国際的なフィールドで活躍出来る舞台が整うよう環境を是非築き上げて、業界全体をより活性化していこうではありませんか。

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